撮影 齋部 功
仕事の広がり
独立後、住宅と並行して、飲食店舗や医療施設の設計も続いていった。
アップルの常連だった紹介者の方を通じて、初日総本店、フランス料理店ランビアンス、天広の仕事をいただいた。日本料理川蝉からは鮨なかざわをご紹介いただいた。
スタンディングバーアップルの仕事は、前橋膳丸、さらにキャメルカンパニーの各店舗へと広がった。近所の喜多八からの紹介でも、キャメル系列店の仕事に携わった。
20世紀末は、まだまだ個人店が元気な時代だったと思う。デザインリサーチと称して、国内外を食べ歩いたことも、よい思い出である。
長野県上田市の「たぬき亭」も忘れられない。先代は懐の大きな方で、経営者として多くを学ばせていただいた。遠方ながら、足しげく通った現場だった。
住宅では、市内で大きな和風住宅を設計する機会にも恵まれた。
また、縁あって、吉田五十八の直弟子である畠山博茂先生のお手伝いをさせていただくことがあった。その折に「大手町の家」の写真をお見せしたところ、新建新聞社をご紹介いただき、「響きの家」が雑誌に掲載されることになった。
先生が設計された大きな住宅の現場にもご案内いただいた。この経験は、後年の「小径の家」の設計に大いに生かされた。
医療施設も棟数を重ね、次第に、それまでの実績から選ばれるようになってきたようだ。
分野は違っても、一つの仕事から次の仕事へ、人との縁と経験がつながっていった。
「風の家」――空間と素材
2001年、ドイツのエコバウツアーに参加した。環境問題やシックハウス対策について考える機会となり、住宅を単にデザインの良し悪しだけでは語れないという思いが強くなった。
その経験が素材の選び方にもつながった住宅の一つが、2006年の「風の家」である。
依頼主は、「大手町の家」や知事賞をいただいた住宅を、すでにご存じのクライアントだった。前橋郊外とはいえ、敷地は周囲に住宅が建ち並ぶなかに残された一区画だった。
プライバシーを確保しながら、開放的に暮らせる住宅にしたい。その相反する条件に対して、中庭を生かすことを考えた。
そのころ、京都を旅して杉本家住宅や町家を見学し、奥行きの深い町家の中庭を囲む空間に魅了されていた。外に向かって大きく開くことが難しくても、内側に庭を設ければ、光や風を取り込み、暮らしに広がりを持たせられる。その考え方を設計に取り入れた。
素材については、TVOC(総揮発性有機化合物)への対策を意識し、いわゆる新建材を極力使わない方針をとった。床には厚さ30ミリの杉板を使い、自然素材のオイルで仕上げ、壁は水性塗料仕上げとした。予算の都合もあり、床のオイル塗りには私もクライアントと一緒に参加した。
この素材の組み合わせは、その後、事務所の住宅設計の標準となっていった。
コメントを残す