2026-04-06
桜の開花を告げる報道があるたびに心がざわつく4月。
ことさら妄想を掻き立てるのが高遠城址公園の桜である。
交通の幹線から外れた山間にありながら、いまだそのプレゼンスは色あせない。
時代ものが好きな立場からすれば、武田勝頼が過ごした城、大奥の江島が幽閉された地――。古城に咲く桜はいかなるものかとずっと機会を伺ってきたが、ついに今年、一念発起して満開の時期に高遠を訪れることにした。
前橋からは150kmも離れた地。まずはルート選びから準備を始めた。上信越道から中央道を経由するルートも考えたが、距離がさらに100km近く伸びることや、寄り道のしにくい単調さを懸念し、山道ながら最短コースである国道152号線を主軸に選定。
調べてみると、長野県上田市と静岡県浜松市を結ぶこの道は、歴史的には「秋葉街道」と呼ばれた道筋をトレースしている。秋葉は修験道、茅野は諏訪大社と、古くから信仰とのつながりが深く、また「塩の道」として物流の要衝でもあったが、何より戦国時代に武田軍団が往来した道である。
高遠城自体も織田・武田の激戦地であった。そんな中世に思いを馳せていると、期待はいっそう高まった。
高崎から中山道、大門街道、秋葉街道を経由する道のり。大門街道までは仕事の監理で茅野へ通った馴染みの道であり、勝手はわかっている。曲がりくねった山道も、「イニシャルD」の舞台である群馬で鍛えた身にはさほど負担にはなるまい。
杖突峠は茅野からいきなり山道に入るが、そこを抜ければ高遠までは緩い下り坂。人家が見えるようになると、すでにタカトウコヒガンサクラが山里のあちこちで満開を迎えていた。運転に気を取られ、画像として残せなかったのが悔やまれる。これは脳裏に刻むしかない。
ほどなくして高遠中学校グラウンドの臨時駐車場に到着。出発準備中のシャトルバスに飛び乗った。

事前に地図などで予習はしていたものの、全貌のつかみどころがない城址公園。期待と不安が入り混じるなか入り口をくぐると、正に満開の桜が空を覆っていた。
見慣れたソメイヨシノよりずっと濃い、可憐な薄紅色。
勝頼の生母・諏訪御寮人の墓所もここ高遠にあるという。信玄が寵愛した美女の面影を、桜の花と重ねて想像してみる。
ただ、ここは戦国期の山城。城郭の面影を探すのは難しい。空堀の跡に往時の気配を感じるものの、石垣や建造物が見当たらないため、写真として構成するには骨が折れる。
春を謳歌する花見客の賑わいと、露店の香ばしい匂いに包まれるうち、いつしか撮影の緊張感も解けてしまった。
せっかくの機会だったが、やはり準備不足は否めなかった。移動距離の長さが、どこか気持ちを後ろ向きにさせた面も事実である。

高遠城址公園は平日ながら、春休みの家族連れも含め大変な混雑であった。なかなか城郭の様子も掴めず、画角には花見客が遠慮なく入り込み、撮影の意欲を削がれる。だが、ふと無心に切ったシャッターにも、あの少し濃い淡紅色の桜が空を覆う様子が写り込んでいて、来た甲斐があったと得心する。
帰路、山里の桜を眺めながら杖突峠を登り返した。少し時間に余裕ができたので、高島城へ寄ろうかとも思ったが、強気に松本城まで足を延ばすことに決め、中央道で松本市内へ入った。
松本は数度訪れたことがあり、夕方に「メインバー コート」へ寄るのが楽しみのひとつだが、今回は車なのでそうもいかない。

大手門跡近くの駐車場に停め、早速場内を一巡する。桜と天守、そして水堀。遠景には雪を頂いた北アルプス。すべてが揃った完璧なロケーションである。
中世の山城である高遠から着いたばかりの身には、その完成された景観に歓喜した。だが、贅沢なもので、揃いすぎていても何かが物足りない。夜、現像してみても同様の思いを抱いた。建築として整いすぎているがゆえに、かえって日常の風景と繋がってしまったのかもしれない。

帰路は三才山トンネルルート。白馬へスキーに出かけた折に初めて通って以来、幾度となく通った峠道だ。信号のほとんどない静かな道である。
鹿教湯温泉を過ぎたあたりからは丸子や上田といった仕事で通ったエリアに入り、ホッとする。とはいえ、前橋まではまだ100km。気は抜けない。
夕陽を背にしたドライブも、徐々に夜へと変わっていく。小諸の「丁子庵」で蕎麦を啜り、一息つく。再び上信越道に乗り、帰宅の途についた。
振り返れば、合計8時間近くハンドルを握っていただろうか。高速と慣れた地方道が主だったせいか、さほど疲れは感じなかった。久しぶりに走る道にも少しずつ変化が見え、一方で往時の面影も残っている。そんな時間の流れを感じ取れたことも、今回の旅の収穫であった。
父方が松本郊外の出身ということもあり、信州には勝手な愛着を抱いている。紅葉の頃、今度はのんびりと、高遠の山里の景色を再び目にしたい。歴史に思いを馳せながら。
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