片付けごとをしていて、ふと目に留まったのが旧COFFEE SHOP APPLEのカップ&ソーサーである。

この器には、少し長い来歴がある。 前橋の市民、とりわけ50〜70歳代にはよく知られた店だった。
敷島公園の近くで、ペーパードリップのコーヒーを初めて目にしたのもこの店である。

店内に流れていたのは、ビレッジ・ピープルの「Y.M.C.A.」の洋盤である。いわゆる歌謡曲的な解釈ではなく、どこか西海岸の自由な空気を感じさせるものだった。

最初に関わったのは、近所のサイン工事屋からの依頼で図面を引いたときだった。その時はオーナーと直接会うことはなかったが、その後は客として足繁く通うことになる。

やがて縁がつながり、店のイラストを描く機会も得た。さらに近くに開店したスコッチバーにも通い、店と人との関係は次第に深まっていった。
オーナーは一度引退したものの、70歳で復帰し、5年間カウンターに立ち続けた。 このカップは、その最後の時期に譲り受けたものである。

APPLEという名は、The Beatlesの時代を共有した世代にとって特別な響きを持つが、私にとってはそれ以上に、この店で過ごした時間そのものを指し示す名である。

いま、小ぶりのカップでコーヒーをいただく。 手の中にあるのは単なる器ではなく、時間の蓄積そのものだと感じる。