ネットフリックスで「深夜食堂」を見返すことがある。営業時間は夜12時から朝7時ごろまで。勤め帰りというには遅い時間だが、様々な人が登場する。

かつて前橋に事務所があったころ、残業帰りに毎晩のように通った店がある。「きさく」という居酒屋である。日本画を嗜む店主が夫婦で切り盛りしていたが、店主が体調を崩し、2019年に店を閉じてしまった。

狭い店で、テーブル席はあったものの客同士の距離は近い。自然と深い付き合いになっていった。店は東福寺の境内の西側に接し、裏通りにあるため、知る人ぞ知るといった感じだった。一匹狼的な客が多かったように思う。俳人、詩人、画家、地元出身の映画監督。商店主やデパートの外商担当者、店員など、様々な客が集まり、にぎやかだった。

このご縁が、いくつかの仕事につながったこともある。常連と旅行に出かけたことも、飲み足りずにさらに二軒目へ繰り出したこともあった。雪の日には、店の前の路地で童心に帰って雪合戦もした。
職場と家庭のほかに、もう一つの世界を持っていたことが、精神的に大きな支えになっていたと思う。

仕事から離れ、世界が一つだけになるという実感はまだ湧かないが、「深夜食堂」を見ていると、急に世界が狭くなってしまうような閉塞感をすでに感じる。

カレンダーに予定を書き込むと空白が多い。空白をどのように埋めるか。新しい生活が待っている。