1989年のヨーロッパ建築見学旅行でコーディネーターを務められた小川守之さんから、絵画個展のご案内をいただいた。最終日の今日、拝見に伺った。つい先日、「ロッホローモンド」というウイスキーを買い、あの旅で訪れたローモンド・キャッスルでの昼食を思い出したばかりだった。当時のメニューも手元に残っている。ニジマスの料理や、大きく重かったカトラリーの感触まで記憶によみがえった。その旅をご案内くださった小川先生に、こうして再びお会いすることになった。

JIA関係での上京も、コロナ禍を境にめっきり減ってしまった。かつては頻繁に行き来していたのに、久しぶりとなると東京が遠く感じられる。御茶ノ水駅から明治大学前の坂を下り、神田すずらん通りに面した文房堂のギャラリーへ向かった。この辺りは坂と大小の道が入り組み、書店や古書店が多く、独特の文化の香りがする。「学生100円引き」と表示する店もあり、学生街は健在である。

小川先生はイギリスでの勤務経験があり、『建築家マッキントッシュ』を著すなど、イギリスの建築に造詣が深い。今回の個展も、ご自身が実際にご覧になり、記憶に残る建築がテーマとなっている。私自身も見学した建築が描かれた作品があり、その穏やかな色調を眺めながら、当時の旅の光景を思い出した。 旅行後、偶然東京駅でお目にかかったほかは、年賀状でのお付き合いが続いていたが、温かく迎えてくださった。建築という共通言語を通して、長い時を隔てても記憶がよみがえる。これも建築設計という仕事を続けてきたからこその喜びである。互いの近況などもお話しし、奥様も交えて貴重な時間を過ごすことができた。

今日は好天に恵まれ、散歩日和だった。その後、中央線に乗り、迎賓館赤坂離宮の見学に向かった。改修工事のころ、柵の外からのぞいて以来である。 初めて見たときにも、その規模と日本の街並みの中では異質ともいえる外観に驚いたものだが、中に足を踏み入れると、さらに驚かされた。目を奪われたのは、意匠の濃密さである。 ふと、司馬遼太郎の『坂の上の雲』の語り口を思い出した。東洋の小さな島国の建築家が、西欧建築を執拗なまでに学び取り、ここまでつくり上げた――そんな一節を思い浮かべたくなる。 日本的なモチーフも見られるものの、私にはヨーロッパの宮廷文化をそっくり移し入れたように感じられる空間だった。このような意匠を必要とした明治という時代の、屈折した空気を感じた。

若いころだったら、さらに別の建築も見ていこうと欲張ったところだろう。今日は無理をせず、旧万世橋駅跡のカフェで一服して、明るいうちに帰宅した。 こうして、休日を閉じた。