備忘録:早春のわ鐵、光と音を調律する小旅行
疲れが溜まったのか、なかなかベッドから離れられずにいた休日。だが、せっかくの休みを無駄にはできないと思い立ち、わたらせ渓谷鐵道の「神戸(ごうど)駅」を訪ねることにした。今回は車ではなく、あえて鉄道でのんびりと向かう。

ルートは、JR両毛線で桐生駅まで行き、そこから「わ鐵」に乗り換える行程を選んだ。お昼は駅前のラーメン屋で済ませたが、後になって「蕎麦にすれば良かった。」と少し後悔するのも、また旅の愛嬌だ。

生活路線であり観光路線でもあるこの場所は、乗客の顔ぶれも多彩だ。数組の客と共に、各駅停車の旅を楽しむ。わ鐵の車両にはロングシートとボックス席の2種類があるが、今日の車両はロングシート。車窓を眺めるために首をひねりっぱなしだったので、少々くたびれてしまった。
それでも、電車にはない独特のディーゼル音を聴きながら、渓谷沿いや集落の間を縫うように進む時間は格別だ。神戸駅に到着すると、交換待ちの桐生行き車両がちょうど入線していた。

神戸駅の古い駅舎。わたらせ渓谷鐵道でもこうした建物は数えるほどしか残っていないが、時間を経たものだけが持つ風格がここにはある。
肝心のハナモモは「まだこれから」といった風情だったが、いざ現像してみれば、それらしい景色として映るから不思議だ。見頃は来週あたりだろうか。

帰路は、DE10形機関車が牽引する客車列車(トロッコ列車)を選んだ。12系客車のボックス席が醸し出す「昭和」の空気感が、たまらなく懐かしい。4両のうち2両は屋根こそあれど窓サッシのないオープンタイプで、この時期はまだ寒いが、排気音を楽しみながら景色を「空気ごと」受け止める爽快感がある。冬枯れの景色も悪くないが、紅葉のピークにはさぞ美しいことだろう。

ふと見ると、客車の床に枯葉が溜まっていた。線路上の落ち葉を巻き上げながら進んできた証拠だ。快速のため停車駅は少ないが、ダイヤに余裕があるのか、列車はゆっくりと渓谷を下っていく。滝の見えるポイントでは徐行サービスもあり、車内アナウンスも相まって観光バスのような賑やかさだ。列車は終点の大間々駅へと、静かに滑り込んだ。

駅を出て、徒歩で上毛電鉄の赤城駅へ向かう。帰路もJRを使うのは、通勤経路と重なって面白みがないからだ。大間々の街には古い建物も点在するが、地方都市の例に漏れず、中心部の商店街はどこか寂しげだ。小腹が空いたので「大間々青柳」で和菓子を調達し、赤城駅の待合室で糖分を補給する。

40分ほど待って、上毛電鉄の中央前橋行きが到着した。
車内は広々としており、乗客もまばら。八高線のHB-E220系が妙にせせこましく感じるのと対照的だ。かつて京王井の頭線を颯爽と走っていた車両は、いま群馬の地で第二の人生を全うしている。
乗車時間40分。柳の新芽が美しい広瀬川河畔の大カーブをゆっくりと回り込み、中央前橋駅に到着。ひとまず、今日の小さな旅は幕を閉じた。