帰路、再びバスに乗って木曽福島駅に向かう。午後三時だというのに谷底までは陽が届かず、せっかくの紅葉も色が判らずじまい。
木曽福島駅は改札口とホームが一階分の高低差があるが橋上駅ではなく、単に崖の上にホームがあるといった印象である。
周囲は紅葉の山々に囲まれ、「木曾路はすべて山の中である」という島崎藤村の一節を思い出す。

今回も長野市と松本市の移動に普通列車では八十分以上かかった。
赤沢までの移動時間は約五時間。それでも帰路、松本に寄りたくなり、特急「しなの」を松本で下車した。
これには、件の構内アナウンスを録音する「音鉄」という目的もあった。新宿からの特急「あずさ」の到着を待つ。
動画についてはまだ初歩の段階だが、何とか録音に成功した。
松本は篠ノ井線をはじめ幹線駅でもあり、到着時のアナウンスは意外と少ない。通過駅とは事情が違うようだ。
JR東海のオレンジ帯の車両はもちろん、群馬では見慣れない行き先を掲示した車両が行き交う様は、遠くまで旅に出たという実感を湧かせ、感傷的にもなる。
本来は再び特急「しなの」に乗車するところながら、普通列車のほうが北陸新幹線に早く乗れそうなので、211系電車に乗り込む。
姥捨の夜景はいかがかと思いながらうとうとし、気づいたらもう篠ノ井。酔っぱらいの老人を演じてしまった。
長野からの新幹線「はくたか」は空いていたが、夜の列車特有の沈んだ空気感が漂う。
あっという間に高崎に着き、短い乗り継ぎ時間で211系電車に乗り換え、前橋へ。
こうして、あっという間の一日が終わった。
この旅は一義的には赤沢森林鉄道の見学・撮影という目的を持っていたが、同時に日常から空間を断ち切り、物思いに耽る時間を獲得することでもあった。乗り継ぎという不連続な時間の中に身を置き、いつもの生活リズムとは異なる流れを享受しつつ、将来を思索する機会とした。結果として、鉄道旅は“移動”を超えた豊かな時間をもたらしてくれた。
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