信州の鐵旅は、赤沢森林鉄道に乗るための旅程である。もちろん鉄路の旅そのものも充分に楽しんだわけだが、保存鉄道とはいえ「森林鉄道」という未知の世界への興味が膨らんだ。

日本における森林鉄道の歴史は、林野庁のウェブサイトに詳しく解説されている。
また、赤沢森林鉄道については上松町観光協会のウェブサイトに紹介がある。

木材の切り出しや運搬は、かつては筏による水運から森林鉄道へ、さらに自動車輸送へと移り変わった。こうして森林鉄道は歴史の中に埋没していったが、鉄道そのものの魅力は色あせない。

被写体としての魅力も捨てがたく、よくメディアで紹介される紅葉の終わりの時期に訪れることができたのは幸運であった。

森林鉄道記念館には、現地をはじめ全国各地から車両が集められており、非常に興味を引く。
最終期の車両が多く、気動車が主である。前面のデザインと塗装は国鉄70系、いわゆる湘南電車の二枚ガラス仕様を模しており、1950年代に森林鉄道が国鉄車両のデザインに受けた影響の大きさを感じさせる。

初期の蒸気機関車(SL)は静態保存のようだが、今にも走り出しそうな姿である。10両導入されたものの、敗戦時に残ったのは3両。そのうち1両が現地で保存され、他は母国アメリカの博物館に引き取られたとのこと。銘板からフィラデルフィア製であることがわかる。
戦時中は銘板を取り外し、現在のものは他機からの移設品だという。燃料不足の戦中戦後には薪を燃やして蒸気を作ったため、火の粉による延焼を防ぐため煙突に大きなカバーをかけた姿が、当時の苦労を物語っている。

現在の森林鉄道は、博物館の動態展示としての位置づけかもしれない。
しかし、清流に沿って木立の間を走る姿には往時の面影が漂う。

麓の駅を発車すると、10分ほどで終点に達する。
5分ほどの停車後、転車台はないので機関車はそのまま機回しを行い、今度はエンジンを先頭にして山を下る。

ゆっくりと軋み音を立てながら来た線路を引き返す。
麓の駅近くの撮影スポットには同好の士が集まり、場所取りでひしめき合っている。

針葉樹の木々を切り出し搬出するための鉄道である以上、当然その森の中を走ることになる。
撮影にはやや単調さを感じるものの、紅葉がちょうど散り始めており、軌道上は落葉のじゅうたん。
秋の陽に照らされて、最後の華やかさを演出していた。
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