八高線キハ110系に寄せて
鉄道はA点からB点まで人や荷物を運ぶものだ。 しかし、人の心は何度もその距離を行き来する。
八高線のキハ110系気動車が、新型のハイブリッド車両に更新されると聞き、少し心がざわついた。冷静に受け止めようとしつつも、やはりある感情が沸き立つのを抑えられない。
高崎と八王子を結ぶ八高線。群馬に住んでいても、私にとってはそれほど縁のある路線ではなかった。幼い頃、父と一緒に間違えて乗車してしまい、倉賀野駅で折り返した記憶があるくらいだ。

しかし、他線区での「キハ110系列」には、確かな思い出が刻まれている。
飯山線(長野〜飯山) 仕事の縁から私用でもたびたび訪れた。当時は輪行サイクリングに没頭していた時期。前橋から飯山までは遠いが、鉄道を利用すれば行動半径は大いに広がる。単線で架線のない鉄路、見慣れない車窓、そして心地よいディーゼル音。それらすべてを五感で味わった。
小海線(佐久平〜中込・中込〜野辺山) 新幹線から佐久平駅でキハ110系に乗り継ぎ中込へ。そこから野辺山までは、当時最新だったハイブリッド車両(キハE200形)を繋いだ。

釜石線(遠野〜宮守) 「銀河鉄道の夜」を撮影するため、遠野と宮守を往復した。宮守橋梁のライトアップされたアーチを渡る列車を待ったのは、6月の梅雨の冷たい雨が降る夜であった。


羽越本線(新発田〜水原) 2014年、TV番組「ビフォーアフター」の仕事で瓢湖を目指した際のことだ。電化区間ではあるが、当時はまだ気動車の運用も多かった。新幹線から特急を乗り継ぎ、降り立ったホームにポツリと出発を待つ車両の姿。「遠くまで来たな」という感慨が深く胸に落ちた。

八高線のキハ110系を見るたび、こうした各地での情景が昨日のことのようによみがえる。
物としての車両を擬人化して「ありがとう」とまで言うつもりはない。しかし、自身の思い出の一部が、ここで一つ途切れてしまうような寂しさがある。

海外へ転出するもの、地方私鉄へ譲渡されるもの、あるいは廃車となるもの。 車両の行く末を自身の老境と重ねてしまうのは、感傷が過ぎるだろうか。 八高線の車両もすでに廃車が始まったと聞く。一年の締めくくりに、いっそう寂しさが募るものである。
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