仕事先で関与している設計案件では建築主所有の山から住宅新築のため杉の林を切って使用する計画となった。地元ならではの恵まれた環境である。かつては屋敷の裏山に植え、新築に備えたものだとか。昨日はその様子を見に所員と一緒に山に入る。事前に設計図面から所要寸法を仕分けし、200本の杉の木を切ることになった。市場で購入するのとは異なり図面寸法に基づいた伐採で柱、梁、床板、造作材、建具材と目的に応じて選別することになる。原木の所有者、伐採する森林組合、一次加工する製材業者、自然乾燥させ最終的に人工乾燥を行い、設計寸法に加工する工務店、さらに大工職人による加工組立という様々な業種の手を経て木造住宅が作られていく最初の工程見学である。

今回の杉材は伐採した断面から推定すると樹齢50年と推定される。なんていうことはない。自分より若い。1970年代に植林されて太いものは元口で40センチ程度まで成長していた。前回は江戸期の屋敷林だったが木材というのはずっと昔から生えていたものとばかり思っていたが自分より若いとは。少し複雑な気持ちになる。

一般的な105mm角の柱を製材するには直径20センチ以上必要だ。同時期に植林してもその太さはまちまちで、色も日当たり、水分によっても異なるし、曲がって伸びている木もある。人間社会との類似性を感じて興味深い。また伐採した木がすべて利用できるわけではない。曲がりや腐り、虫害などのロスをはじめ丸い木から四角い製材をしようというものだから、柱として使うことができるのはせいぜい25%、その他は板材などに製材して使うことになる。その他の部分もバイオマス発電の燃料や肥料にもなるのだから、大事に残さず利用してもらいたいものだ。魚の食べ方の作法と同じである。

50年を1サイクルとした計画伐採を仮定すると50年は売り上げにならないのが現実。うまく回転すればよいのだが外的要因でそううまくはいかない。昨今の輸入材の供給不安定に良い国内材に目を向けられるようになったが今回、一棟のために200本からの杉材を伐採することになった。このことを考えると安直に国内材を使ってしまうと計画伐採が追い付かなくなってしまう。戦後間もなくの台風で群馬県で大きな被害を出した原因の一つに乱伐によって保水力を失った山から土石流が流失したことが挙げられている。山林が緑のダムといわれるよう環境保全に役立っていることは言うまでもない。木材は無限ではないし天然ものばかりではない。造林材はいわば養殖ものだ。50年前の先人からのプレゼントだ。目先の投機に目を奪われることなく、長い視点での林業が求められるのではないだろうか。