2025年3月6日、
JIAアーバントリップ・土浦亀城邸・堀商店に参加した。JIAの持つ建築家ネットワークを活用したこのシリーズは会を重ねてその運営ぶりは極めて充実している。今回も設計者などから詳細の説明を受けることができ、見落としがちな要点も残らず拝見することができた。
青山タワービル
集合場所は青山タワービルだった。同ビルは吉村順三の設計による。一見質素でありながら豊かな表情は一連の住宅作品にも通じるものを感じさせる。
1階のエントランスの方立が型鋼の組み合わせ、エレベーターの扉回りの壁が黄色い塗装と、チープな材料を上品にまとめているところが1969年という建設年次を考慮しても今の華美な建築と一線を画している。
土浦亀城邸復原・移築
土浦亀城邸はかつて雑誌「住宅特集」で紹介され、その後見学する機会が40年前にあった。日本の住宅のプロポーションとは明らかに違う空間は大変新鮮に思えた。
大崎にあった住宅を青山に移築するという「復原」事業である。復原にかかわった安田幸一先生から新築当時に戻す手法で注意深く再生された説明を受ける。
モダニズム建築が日本の当時の若い世代に大きな刺激を与えた時代を反映した。建設技術面にも工業製品で構成することに注目していたことがこの住宅に残っている。最新の情報をどん欲に吸収しようとした思いが伝わってくる。造作家具は既製品などない時代に生活感を今に伝えられるほど丁寧にしつらえてあった。
住宅は風景の一部に長い年月によって溶け込んでいくものだが、保存のためとはいえ敷地から切り離されてしまうとやはり実在感が薄くなる。博物館に収蔵された文化財もそうだ。やむえないことではある。
堀ビル(旧堀商店本社)
堀商店はもはや高級建築金物メーカーでなかなか設計に盛り込むことはできない。職人による手作りの味わいは代えがたいものがある。その堀商店の新橋にある旧本社ビルの改装工事の見学である。旧本社では商品はもちろん、海外から収集された古い錠前なども見ることができ、古い建築とともに堀商店のイメージを擦りこまされたものだ。古い建物の利活用ということでいったん施工会社である竹中工務店が借り受けそれを貸し事務所サブリースするという方法での改修工事だ。
用途がすっかり変わってしまったが新橋界隈でも数少ないと思われる戦前の建築が生き延びることができた。堀商店の店舗自体ここにある必要もないのだろうから資産の保全のためにも一つのあり方であろう。
観点を変えてみて同様な建物はそのほとんどが既存不適格、または違反建築になっている場合が多い。建築確認申請が必要であるかどうかで補強方法から防災設備まで変わってしまう。今回のように概ね既存不適格建築物を改修するときの判断として、現行法規にどこまでアップデートしたらよいか、原型保存の面、また予算の面、悩ましいところである。このビルも屋上の安全対策など配慮されているところもあるが階段の竪穴区画は施されていない。まあ階段は見せ場の一つではある。実際に執務中の事務室も見学することができた。既存を生かしながらの改修ということもあり不自由な面もかえって喜ばれている向きもあるとのこと。画一化された新しいビルにはない魅力かもしれない。
先月に続いてまた建築見学の機会を持てたが、やはり関係者の案内で見学できる機会は貴重である。本件の企画に拘われた皆さんのご労苦に深謝します。
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